読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

CALMな時間

Everything is made from a dream

Enthusiast- 時を走る旧車<小説>

小説

こんにちは。高校生活、最後の年だと思うと、ちょっと切なくなるNaokiです。

気づいたらブログを始めてから1年が経ってました。

そこで今日はいつもの日記とは違って、ずっと前に作った小説を投稿しようかなと。

二年前に、うごくメモ帳で投稿した「時を走る旧車」という話を手直しして投稿しました。

※誤字、脱字等が所々にあるかも…。

長い記事になりますがどうぞ。


f:id:dorifuto-naoki:20140406204839j:plain


Enthusiast 時を走る旧車

ある年の夏休み。12歳の少年(詠助)が、不思議な旧車に出会う物語。


=登場人物=

屋道 詠助 -やどう えいすけ
屋道 幸助- やどう こうすけ
ハコスカ(スカイラインGT-R)
謙助(父親)- けんすけ

高石 洋太- たかいし ようた
富嶋 寛三-どびしま かんぞう

後はお楽しみに…


真っ青な空の下、何度も風が通り抜ける。
なぜか目の前が眩しい白だ。いや、そこだけではない。

詠助は頭を上げた。そこは辺り一面、限り無く続いている真っ白な世界だった。

いつの間にか詠助の足は前へと進み始めている。自分の頭の中で声がした。

-今立っている場所は?自分は今、何をしているんだ?

詠助の足は止まる気配が無く、一定のペースで歩き続けている。
空以外が白いせいで、歩いているはずが まるで同じ所にずっといるような感じだ。

すると、急に喉が渇いてきた。

-水…水が欲しい。何か飲み物は無いのか…。

その時だ。詠助の両手両足が自分で動かせるようになった。

といっても、いくら自由に動かせるからといって、この青白の世界で何ができるんだ?

静かに風が吹き抜けた。
ふと気付くと、遠くに何かが見える。

正面から見ているせいで分かりにくいが、詠助にはそれが車の様に見えた。それと、その隣に人も見える。これは確実に人の様だ。

その車と人に見える物の影が詠助に向かって延びている。まるで黒いカーペットの様に。

詠輔はその影をたどって走ろうとした。しかし、急に目の前が光だし目を閉じてしまった。



「あっ。」

詠助は目を開けた。見えるのは自分の部屋の天井だ。今のは夢だったらしい。

横に置いてある時計を見ると、午前7時をまわっていた。
体を起こし、風でなびいているカーテンを開ける。薄暗かった部屋はたちまち光を歓迎した。今の夢程ではないが眩しい光だ。

先週から夏休みへと突入した詠助は今日、都心へと行く予定なのである。

「えいすけー!。起きてるか?」

一階から声が聞こえた。詠助は着替えをすると急いで階段をかけ降りた。

「コウ!何でもっと早く起こしてくれなかったの?」

コウというのは、詠助の兄で幸助という。

「しょうがないだろ。俺も今起きたんだよ。」

幸助が焼けたパンにかぶりついた時、台所から兄弟の母親が来た。

「詠助も朝ご飯食べちゃいなさい。これから二人で出掛けるんでしょ?」

母親は麦茶をコップに注いだ。

「はーい。いただきます。」と詠助は椅子に座った。

朝食が済んでから数分後、二人は玄関にいた。詠助は買ってもらったばかりの帽子をかぶり、リュックサックを背負った。

「忘れ物はない?カメラは持った?」

「うん。大丈夫、持ってるよ。」

「財布は入ってる?」

「母さん。昨日から確認したから大丈夫だよ。」

と釘を指したのは幸助だ。

「コウも帽子かぶってったら?」

「俺はいいよ。」

「そう。じゃあ気おつけて。詠助とはぐれないでね。」

「わかってる。行ってくるよ。」

「行ってきまーす。」

二人はバス停へと歩いた。家からは五分ほどかかる。

道沿いの木々に止まっている蝉が騒がしく鳴いている。

幸助が歩きながら口を開いた。

「母さんも行けばいいのにな。」

詠助は幸助を見上げた。

「母さん、見たいって車があったらしいのに用事があるんだってさ。」

頭の中で「ふーん。」と言っている詠助を横目で幸助は見ながら歩いていた。


そもそも二人はなぜ都心へと向かっているのかと言うと、数日前のある事がきっかけだった。



その日、茶の間でテレビを観ていた詠助がある番組を見て言った。

「お母さん、旧車博だって。行ってみたいな。」

「詠助はほんとに車が好きね。」

その時、二階から降りてきた幸助が茶の間にいる二人の会話に入ってきた。

「何の話?」

「えいすけが車博に行きたいんだって。」

「違うよ旧車博。ねぇ、コウ行ってみたくない?」

幸助は座布団に座った。

「旧車博か。俺も行きたいなぁ。」

「ほんとに!?」

詠助の顔が明るくなった。

「んで、いつやってるの?」

「次の土曜日と日曜日。」

幸助はポケットから携帯電話を取り出してカレンダーを開くと言った。

「土曜か…。土曜は予定があるから日曜日なら行けるな。」


そしてこの日に旧車博物館へ行くことにしたのだった。

ところで、さっきから旧車 旧車って何?と突っ込みたい人がもしかするといると思うので、簡単に説明すると、旧車はそのままの意味で今よりもだいぶ前に作られた車という意味。

二人が向かっている旧車博物館は、1950年頃から80年頃の車があるらしい。

幼い頃から車が好きな二人にとって、滅多に見ることの出来ない旧車を見られるという期待は大きい。



話は戻り、バス停に着いた二人は次に来るバスの時間を見た。

「もうすぐ来るな。」

「席、空いてるかな?」

「夏休みだし、日曜だからな。バスも電車もたぶん混むだろう。」

案の定、混んでいるバスと電車を乗り継ぎながら、ビルが建ち並ぶ都心へと入って行った。

二人は電車を降りると、博物館まで徒歩で向かった。
幸助は携帯電話を地図代わりに使っている。

「えっと、この先の建物か。」

詠助は幸助を抜かして前へ走ると。

「ねぇ、あれじゃない?」

と前に見える建物を指さした。

「ああ、あれだな。」

詠助の指さした建物の入り口まで行くと、旧車博物館だと思う看板やポスターを見つけた。

パンフレットを手に取って、車が並んでいる所へと来た。

「凄い。昔の車がいっぱいあるよ!」

詠助は車へ駆け寄った。

「あんまりはしゃぐなよ。」

写真を撮ったり、車の説明文を見たりしながら館内を歩きまわった。

ベレットやダルマセリカ等という名で親しまれている車達を眺めていると幸助が言った。

「なぁ詠助。あれ見ろよ。」

詠助は幸助の言う方向を見た。

ハチロク?」

「違うよ、その隣。」

二人はその車に近づいた。

「この車、なんていうの?」

「これは日産のスカイライン2000GT-R。通称ハコスカだ。」

詠助は、なんだそのなが~い名前の車。と思った。

「不敗神話もあるくらい凄い車なんだぜ。」

「へえー。速かったんだね。」

その後二人はお土産を買ったり、他の所でランチを食べたりしてから家へと帰った。


まさかこの時、二人はこの後起きる出来事など予想できはしなかった。


翌日の午前、詠助は母と二人で買い物をして昼頃に家へ帰った。
家に着いた瞬間、電話が鳴った。

「はい!もしもし。」

詠助が電話に出た。

「あっ、詠助。高石だけど、今日の午後って空いてる?」

電話の相手は詠助と同じ学校の友人だった。

「うん、空いてるよ。」

「じゃあ、2時に公園で待ち合わせな。」

詠助は約束の時間に公園へと向かって行き、高石が持ってきたボールでキャッチボールをしたりして遊んだ。

しばらくして高石が言った。

「なぁ、神社に移動しないか?」

「そうだね。最近行ってないし、行ってみようか。」

そう言って二人は公園の近くにある神社へと向かった。

しかし、神社に来た二人は不自然に思った。なぜか入り口に車が止まっているのだ。

「ここっていつもは何も無いよな。」

「たぶん、近くの家の車だよ。」

詠助はこの時、車を気にしてはいなかった。

境内でしばらく遊んでいると日が沈み、夕方になったので二人は帰ることにした。
神社を出ると、まだあの車が止まっていた。

「まだあるよ、この車。」

「そうだね。」

と言葉を発しながら、詠助の足が止まった。

なんとその車は昨日見たあのハコスカだったのだ。
さっきはよく見てなかったせいでわからなかったが、確かにハコスカだ。

「ん?どうした詠助。」

「あっ、いや。何でもないよ。」

二人はそれぞれの家へと帰った。

ところが、詠助はすぐに神社の入り口へと戻ってきた。

勿論、ハコスカ見るために。

詠助は夕日に照りつけられているハコスカの周りをぐるりと一周した。焼鉄色のボディに、つやのない黒のホイール。このハードトップは旧車博物館で見たのとほとんど同じだ。

レトロ感が残る車といえばこの車だなと詠助は思った。
車内を見るとエンジンキーが差しっぱなしになっている。

たぶん近くに持ち主がいるんだろう。詠助は腕時計を見た。あまり遅く帰ると心配される。

詠助が帰ろうとすると高石が走って戻ってきた。

「あれ、詠助!?なんでいるの?」

「お前こそ、走ってどうした。」

「いやぁ、ボールを忘れててな。」

高石はボールを取ってくると「じゃ、また。」と言って帰っていった。

詠助も帰ろうとしたときだ。

「まって!」

声がした方に「え?」と詠助は振り返ったが誰もいない。

高石のイタズラか?いや、違う。今のは神社の方向から聞こえた。

詠助は首をかしげると家へ急いだ。


この時 運命のギアは静かに回り始め、やがて噛み合うその時を待つのであった。


f:id:dorifuto-naoki:20140429184513j:plain


「ただいま。」

家へ帰った詠助は真っ先に二階の幸助の部屋へと駆け込んだ。

急にドアが開いたので机に向かっていた幸助がどうした?という顔で振り向いた。

「コウ!今ハコスカを見たんだよ。」

詠助の顔は、長い間探していた宝物を見たかの様になっていた。だが…。

「ん?あぁ、ハコスカか。よかったな。」

幸助はまた机に向かった。

それだけ?「俺も見たい」って言うのかと思っていた。

詠助は少しがっかりした。確かに昨日、博物館で見たばかりだから反応は薄いはずだ。

夜になり、父親が帰ってきた。父なら聞いてくれると思い「お帰り。」と言いながら詠助は階段を降りてきた。

「ねぇ、父さん。今日ハコスカを見たんだよ。」

父は少し動きを止めてから言った。

「おぉ、そうか。よく知ってるなぁ。そうか、旧車博でも見たんだっけ?」

「うん。だからわかったんだよ。」

ハコスカか…。」

父の目は少し寂しそうな何かが詠助には感じたが、何も尋ねはなかった。

夜も更け、自分の部屋に入った詠助は寝る前に網戸を開けてベランダへと顔を出した。

「涼しい。」

ふと夜空を眺める。

「明日もあのハコスカいるかな…。」

自然と言葉が漏れた。

「いるさ。」

詠助はビックリして隣の窓を見た。そこには同じように夜空を眺めている幸助がいた。

「コウ…。」

「なんだよ、気付かなかったのか?まぁいいや。明日神社に行くんだったら俺も行ってやるよ。」

「あっ…。」

「もう寝ろよ。」

幸助は窓から顔を引っ込めた。詠助も顔を引っ込めながら呟いた。

「なんだ。気になってたんじゃん。」



翌朝、詠助は公園へと行こうとしている。とゆうか、もう向かっている。もちろん幸助も…あれ、いない。幸助は後から行くとの事で詠助を先に行かせた。

詠助は走った。きっとまだいる。そう信じて。

ふと空を見た。昨日まで晴れていた空は、今では黒い雲が青空を隠している。詠助は神社へと着いて入り口を見た。

「いた。」

そこには、昨日のように止まっているハコスカがあった。

良かった…。もう見れないかと思った。

この時の詠助は昨日の何倍もの好奇心でいっぱいだった。
ハコスカを見るだけで嬉しくなる。そんな気持ちで。

それにしても、よく考えればこの近くの家にハコスカが止まっているのを見たことがない。まさか最近になって購入したのだろうか…。


もしかしたら、遠い所から来たのかも知れない。
「まさかねぇ。」車を置く場所が無くても、こんな所に普通は停めないだろう。

それと、もうひとつ変な点がある。
ここに車を停めたなら、タイヤの後がつくはずだ。なぜなら神社と道路の間には土と砂があるからだ。しかし、後がついてない。

詠助は車の後ろ、神社の方向にまわった。

「ん?」

なぜか、こっちにタイヤの後がついていたのだ。

いったい…?

「昨日も来たよね。」

「うわぁ!」

びっくりした。なんだ今のは?近くに誰かいるのかな?
だが、見渡す限りは誰もいない。

「落ち着いて。」

「うわぁ、まただ。」

「ここだよ。目の前だよ。」

目の前?間の前にはハコスカがあるだけ。

まさかこの車が?いや、それはない。しかし…。

「今のって、君?」

馬鹿馬鹿しいと思いながらも、半分冗談で尋ねてみた。

「やっと気づいてくれたね。」

そんな事があっていいのか?

「んな、車だろ…。」

「自は特別な車なんだ。」

「自?」

「自分の事。確かに自は他の車と違って、話が出来る変わった車だと自覚しているよ。」

詠助は目の前の出来事にただ驚いた。

「信じられない?」

詠助は自分の頬を叩いた。

「夢…じゃ、ないのかな?」

いや、待った。どこかに盗聴器やスピーカーがあるのかも知れない。

「まあね。夢じゃないよ。」

何だろう。スピーカーからはこんな声は出ない。普通の人に話しかけられているようだ。

だとすれば、車内に人がいるのかも知れないと詠助は考えた。

その時、決して強くはない風が吹き抜け、乾いた地面に小さい黒い点がいくつも現れた。
やっぱり降ってきた。

詠助は今、傘を持っていない。

「乗っていいよ。」

「そんな、いいよって言われても。」

「いいから。」

ためらいながらもドアを開けた。車内には誰もいないという事を確認して、ハコスカへと入る。

旧車のはずなのに、なぜか新車のような匂いがする。

シートに座り、ドアを閉めた。ハコスカのコックピットはなんともいえない場所であった。かくかくしているから、ハコと呼ぶのにふさわしいような内部だ。

「四角いね。」

「そう?」

「うん…。いいのかな、人の車だよね?」

「人の車だよ。」

「え?じゃあ、不味いんじゃあ…。」

「不味くない。君は自入っても害は無さそうだよ。」

「なんで?」

「何となくわかった。」

詠助は気付いた。なんとなく自分の声に似ているなと。

「ありがとう。乗せてくれて。」

「どういたしまして。」

外にいたら、今頃びしょ濡れだった。

「さっきから気になってたんだけど、君はどこから来たの?」

少し間が空いた。

「過去だよ。」

「過去?」

話すだけでも凄いのに…。過去って。

「君の生まれるずっと前。」

それじゃあまるで、タイムトラベラーじゃないか。

「自は、自の持ち主にある機械を取り付けられてから人に言葉を送れるようになったんだ。」

その言葉のように、他の車には無いような機械がタコメーターとダッシュボードの間に取り付けられている。現代で言うと、ナビが付いているところだ。

「そしてその機械をつけられてから、未来へ行くことになった。」

「どうやってその時代から?」

当然の質問をした。

「実際にはあり得ない事だけど、できてしまったんだ。この神社の入り口で。」

この神社で?

「この神社の入り口こそが、この時代と自の時代との結び目になっているんだ。」

詠助は鳥居を見上げた。

「ここが?」

「場所は偶然だろうけど、この神社は昔から変わってないからね。」

だがまて。こんな凄い機械が今よりもだいぶ昔からあるのだとしたら、もっと優れた物があったのかな?

「けど、それを僕に話していいの?」

「大丈夫。君が自の前に姿を見せたときから、悪い人じゃないと思ったから。」

「目が見えるの?」

「目?そんな物は無いけど、音波みたいなのを感じ取っているようなものかな。」

音波ねぇ…。よく分からないけど、とにかく信じられない事が起きているのは事実だ。

ワイパーが動いていない為、雨の雫が流れている車窓を詠助は眺めていた。



その頃、幸助は走っていた。雨の中を傘を指して。

「詠助のやつ、傘も持たないでっ。」

幸助は神社の入り口へと続いている道へと曲がって走り続けた。

少しの沈黙の後、ハコスカが言葉を発した。

「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。確かえいすけって名前だと思うけど。」

「え?何で知ってるの?。」

ハコスカには名乗ってないはず。

「君ともう一人の人がしていた会話を聞いていたから。」

そういえばそうだった。

「なるほど。」

詠助は「君の名前は?」と聞き返そうとして気付いた。そう、相手が人なら別だか人じゃあ…。たぶん、ハコスカと返すだろう。

「あのさ…。」

詠助は一応訪ねようとした。しかし…。

「ん?」

近くで足音がする。誰かが走って来ている。

「コウ?」

その人物はハコスカの隣で足を止めた。そしてゆっくりと歩きながら車の前へと立った。

「えいすけ?」

やばい、叱られる。と、詠助はドアを開けて幸助の傘の下へと入った。

「お前…。何やってんだ?」

「…。」

詠助は何も言わずにただ下を向いている。

「この車、誰のだ?乗っても良いって持ち主に言われたのか?」

「誰のかは…分からない…。」

するといきなり、幸助の手が傘を落として詠助の服の襟をつかんだ。

反対の手では拳が震えている。
だが、少しすると幸助は手を話した。そしてもうひとつの傘を渡すと家へ向かった。

「帰るぞ。」

詠助は仕方なく家へ帰ろうと向きを変えたときだ。

「助けてほしかった。」

そうハコスカから聞こえた。

詠助は足を止めたが、「早くしろ。」と幸助が言ったので何も返せなかった。


家に着くと幸助は詠助を部屋に呼び出した。

「どうして車に乗っていた?」

詠助は何も言わずに下を向いている。話しても信じてもらえないと思っていた。頭には雨の雫ではなく、汗が流れていた。

幸助はひとつ溜め息をついた。

「いくら車がいいからって、よその車に勝手に乗るのか?何考えてんだよ。」

「違う!僕は…。」

言葉を続ける前に、幸助は手のひらで詠助の頬を叩いた。

「俺が聞いてるのは言い訳じゃ無い!」

「コウ…。」

「二度とするなよ。母さんと父さんには言わないでおくからな。」

そう言い残すと幸助は部屋から出て行き、家の外へと出掛けてしまった。

それから何分もの間、詠助はその場に立ち尽くしてようやく頬の痛みを感じた。自分の部屋に行き、ベッドに寝ころぶ。

幸助に怒られた事よりも、詠助の頭はハコスカでいっぱいだった。

世の中にはあり得ない事だって起きるのか?車と話したんだぜ?自分はどうかしているのかも知れない。詠助はそんな気分になっていた。

それにしても、あの言葉が気になる。

ハコスカは助けてほしかったと言っていた。もしかしたら、何か困った事でもあるのだろうか。

詠助は思う。だったら助けたいと、何とかしてあげたいと。もう一度ハコスカと話がしたいと。

詠助は決心した。たとえ幸助にまた怒られようとも、あの神社に行くと。



翌日。昨日の雨など忘れてしまいそうなほどの青空が広がっていた。

朝食を食べた後、詠助は玄関から外へ行こうとしていた。

「出掛けてくる。」

「どこいくの?」

母が利いてきた。

「え、ちょっと公園で待ち合わせだよ。」

そう言い残すと神社へと走った。走って走って、息切れをしてようやく入り口へと来た。しかし…。

「そんな…嘘だ…。」

そこにはハコスカがいなかったのだ。詠助はその場に立ち尽くした。

何処へ行ったんだ?まさか誰かに乗って行かれてしまったのか?

詠助はしだいに焦りはじめる。蝉の鳴く声だけが聞こえていた。

それからどれだけ経過しただろう。詠助の耳に人の声が聞こえた。

「えいすけ?えいすけ!」

「あっ。」

声のする方に振り向く。

「なにしてんだ?そこで。」

声の主は高石だった。

「高石…。」

「どうしたんだよ。」

「いや…。暇潰しにちょっとね…。」

「暇潰し?ふーん。そういや、ここの神社って明日祭だよな。」

そう言えばそうだった。

「なぁ、えいすけ。山の神社に行かないか?ここは祭の準備をする人達の邪魔になるから。」

その様だ。確かに機材を積んだトラックが近くに停まっている。

「ああ、いいよ。」

詠助と高石は山の方にある別の神社へと歩いた。数分も歩けば着く所で、山と言ってもさほど大きくはない。

向かう途中、詠助は気になる人を見掛けた。それは黒い帽子を被った男で、辺りをキョロキョロと見渡しながら神社の方へと歩いていたのだ。

詠助にとっては、違和感のある男に見えた。

「あの人も祭の関係者かな?」

「さぁ。たぶんそうじゃないか。」

辺りをうかがっていた男は、詠助達と目が合った。詠助は「早く行こう。」と言って、歩くペースを速めた。



あちこちから聞こえる蝉の鳴き声を聞きながら坂道を登り、神社が見えてくる。詠助達が山の神社へ着いた時、ある物が目に入った。なんとハコスカがそこにいたのだ。

「え?ハコスカ?」

「あれ、えいすけ。それって昨日見た車じゃないか?」

詠助は頷く。ここも神社の前にはスペースがあり、結構な広さがある。ハコスカはその一番端に停められていた。

「あ!遊ぶ約束してたんだった。」

突然、高石が言う。

「えいすけも来るか?」

「ごめん。暇って言ったけど、そんなに長く遊べないんだ。」

「そっか。じゃあまたな。」

詠助と高石は互いに別の方向へと進んだ。詠助は勿論、ハコスカの方向に。

木々の漏れ日に当たっているハコスカのルーフは、近くに設置されている石で造られた日時計よりも輝いていた。

詠助はハコスカの前まで来ると、誰もいない事を確かめてからハコスカに話し掛けた。

ハコスカ。何で移動してるの?」

詠助はまた馬鹿馬鹿しい事を自分は話してるような気がした。

「この時代だと、自の事をハコスカと呼ぶんだね。自が移動した訳じゃないよ。大体、運転する人無しでは移動できないからね。」

「じゃあ、誰が?」

「君のよく知っている人だよ。」

「それって誰なの?」

ハコスカが続けようとした時だ。

「俺だよ。」

軽い風で揺れている木々の葉音と共に、後ろの方から声がした。その人物はこちらに歩いて来ている。

「え…コウ?」

そう、幸助だった。

「朝に話そうと思ったんだけど、すぐ出てったから。なんか…悪かったな。一方的に怒って。」

「それはいいけど、何でコウが?」

「こうすけは昨日あの神社にまた来たんだ。それで訳を話したらここに連れて来てくれた。」

ハコスカが答える。

「あれはかなり驚いた。」

幸助は苦笑いを浮かべる。

「訳って何?」

「昨日話した様に君と自の住んでいる時代は違うけど、この後付けの機械だけはこの時代の物なんだ。」

「この時代の?」

「分かるよな、えいすけ?この時代の誰かが、過去の時代のハコスカに機械を付けたって事を。」

幸助が言う。

「そんな、何が目的で?」

ハコスカが俺に話してくれた内容によると、おそらく…ハコスカを狙っているのかもな。時代を越えられるタイムマシンの様な物なら、誰だって使いたくなるだろ?それを何らかの形で利用したんだろう。」

「じゃあ…この時代で機械を外すとハコスカは元の時代に戻れなくなる…。」

「そう。もしその誰がハコスカを狙っているなら、あの神社に向かうはずだ。だからここに持って来たんだ。」

「じゃあ家に…。」

「家には車がもう入る空きがないだろ?だから近場のここにしたんだ。でもここもそんなに遠くはないし、また移動しないと見つかる危険があるからな…。」

「じゃあ、何処かに走ってみない?」

会話を聞いていたハコスカが話に割り込んだ。

「えっ?また乗っていいの?」

「もちろん!」

詠助は幸助に振り返った。

「コウ!運転してよ。お願い!」

「んー…。そうだな。ドライブしながら考えるか。」

詠助は笑顔になった。走るハコスカに乗れると思うと、今まで以上に心が弾んだ。



幸助はエンジンキーを回してアクセルを踏み込んだ。詠助は徐っ席に座っている。

少し行くと、峠道に出た。
山合の静寂を破る独特の高音質を響かせるハコスカは芸術その物の様に見える。

「ここって、秋になると紅葉が綺麗なんだよ。ハコスカにも見せたいな。」

詠助が言った。

「自は君達の様に目というものが無いから、綺麗とかはわからないかも知れない。」

「そうか…。でも紅葉って、一年中秋だったら何時でも見られるんだろうね。」

これに幸助が笑いながら答えた。

「一年中紅葉か。でもえいすけ、それじゃ飽きが来るだろ?日本は四季が均等に来る。それは結構、贅沢な事じゃないか。」

「秋だけに飽きか…。つまらないよコウ。」

木々がそびえる緑色のトンネルを過ぎると、町の景色が一望出来る所まで来た。

f:id:dorifuto-naoki:20140429184216j:plain

詠助は手回しのレバーで窓を開け、顔を覗かせる。気持ちのいい風に当たりながら最高の想いに詠助は浸っていた。

幸助もくるくるレバーを回し、半分ぐらい窓を開けた。

二人が家族と車でよく通る道はハコスカのおかげで、いつもより格別に思える。

緩やかなコーナーの続く道は下り坂になっていき、やがて田舎町へと入っていった。

夏の蒸し暑い日だという事を忘れそうなくらい、ハコスカの車内には気ままな風が飛び込んで来ていた。

田畑に囲まれた道や古民家の路地を通るハコスカは、何処かに歴史を感じさせるところが有るような車だ。



時間は昼時になり、幸助はある店でハコスカを停めると、詠助とランチをする事にした。

昼を食べながら詠助は話した。

「ねぇコウ。ハコスカの話って本当なのかな?」

「ん?まぁ、信じがたい話だけどな。でも嘘だと知っていたとしても俺は騙されてやるよ。その方が楽だろ。それに、ハコスカに乗れた喜びは誰にも変えられない程なんだ。」

「でも、僕らが本当に役にたてるのかな…。」

「いいか詠助。誰かの運命を変えることで人生は始めて意味を成すんだ。顔を上げろよ。自信を持っていこうじゃないか。」

その言葉に頷いてランチを食べた。


ハコスカに戻った二人はこの先を考えた。

「問題は何処に停めるかだな…。」

「うーん…。」

「そうだ、俺の友達ん家に停めてもらえるかも知れない。あの場所なら分かり難いからいいな。あいつの家にはR35があるんだぜ。」

※R35とは現在発売されているGT-Rの中で、一番新しいスペック。

「ほんとに!」

「うん。そうだハコスカ。他に行きたい所はないか?」

「他に?」

「都心はどう?」

詠助が言った。

「ああ。良いかもな。どうだハコスカ?」

「そうだね、都心に行きたいな。」

「よし、決まりだ。」

幸助はハコスカを発進させ、都心の道へと走らせた。

ハコスカの機械には目なんて見えない。しかし、頭の中に映るような感じがするだけでも、ハコスカに乗せてくれたお礼をしたくて幸助は言ったのだろう。

都心に着いたハコスカは、ビル群の間にある通りを走ってまわった。

ハコスカは言う。

「これが未来の都心…。知らない車がたくさん走っているね。」

あたりまえだ、と二人は瞬時に思う。

ほんの時々、旧車とすれ違うと「あの車は自の時代にも走っていた。」と話していた。

ただ、何処を見ても当たり前のようにハイブリット車が多かった。そのため、ハコスカは言う。

「周りの車があんなに静かに走ってる…。」

ハコスカにとって、この時代は驚く事で溢れていた。

「ちょっと、喉が渇いちゃった。」

途中、詠助がそう言ったので、幸助は近くに見えたコンビニへの駐車場に車を停めた。

「ほら、これで好きなもん買ってこい。」

幸助が渡した千円札をポケットに入れた詠助はコンビニへと入っていった。

数秒程経過した時だ。ふと横の窓に目を向けて気付いた。いつから見ていたのか、じっとこちらに目を向けている人がいる。

やがてその人は幸助が乗っているハコスカに近づいて来ると、話を始めた。

「あんた、凄い車に乗っているねぇ。」

白い髭を生やし、茶色いハットをかぶったその人の声は、窓を開けているので普通に聞こえた。

「ど…どうも。」

「いや、これは失礼。素晴らしいヒストリックカーがい停まっているものだから、つい。」

ああ、この人はただの車好きなんだなと幸助は思った。その人はある近くに停めてあった車を指差した。

「あれが私の車でしてね。」

その車を見た時、幸助は目を丸くした。その車はケンメリだった。ケンメリとはハコスカが発売されたそのすぐ後に発売された車。

ただの車好きじゃ無かった。

「とてもいい車ですね。」

「ありがとう。君のような若い人が今も古い車を好んでくれて嬉しいよ。」

ちょうどその時、詠助が戻って来た。

「あれ、知ってる人?」

「いや、今初めて会った人だよ。」

「こんにちは。」

詠助はその人に挨拶した。

「やぁ、どうも。若い頃からハコスカに乗れるなんて幸せだね。」

その人はにっこり笑うと「それじゃあ、ここで。邪魔したね。」と言った。

幸助は「いえいえ。」と言いながらキーを回した。

ハコスカを大切に。若きエンスージアスト。」

その人はそう言うとコンビニへと姿を消した。


たくさんの道を走っているうちに、日も暮れ始めていた。時間が過ぎるのは本当に早いものだ。



自分達の町へ向かう道を走しらせながら幸助が言った。

「ところで、ハコスカはどうやってこの時代へ?誰かが運転しないと来れないはずだよな。」

「自の持ち主と来たんだよ。でも、この時代に来たときには誰もいなく、自だけが神社の前に取り残されたんだ。君達のお陰だよ。ありがとう。」

「いや、別に礼を言われる事程じゃないけどな。」

そう言いながらも幸助は顔の頬が緩んでいた。

「でも、ハコスカの持ち主はどこに行ったんだろう。」

詠助が言う。

「分からないけど、もしかすると過去の人物はこの時代に来れないのかも知れないな。ハコスカだけが来れてたりして…。」

幸助がそう言った時だ。

「あっ、そこの店。」

と、ハコスカが口を挟んだ。

とっさに幸助はある店の前で車を止めた。

「ここって…。」

そこはお茶や和菓子を売っているお店で、詠助と幸助の母の実家だったのだ。ちなみに父親の実家はまた遠い別の所にある。

「何でハコスカがここを?」

「自のいた時代にもあった店なんだ。」

詠助と幸助はこの近くまで来た時には挨拶へ行く事がある。

「おじいちゃんとおばあちゃんに会っていかないの?」

「今は仕事中だろ。」

幸助はまたアクセルを踏んだ。

「そういや、明日はあの神社で祭があるらしいな。」

「そうだ。ハコスカも行ってみない?」

「お前…ハコスカを狙っている奴が来たらどうすんだよ。」

「でも…。」

「行ってみたいな。」

「え?」

「この時代の祭も見てみたいんだ。」

「ほら。大丈夫だよ。ハコスカも見たいって言ってるし。」

「ん…。仕方ないな。…わかったよ。」

そうこうしているうちに、幸助の友達である富嶋の家が見えてきた。

ハコスカを家の前で停めると、早速インターホンを鳴らす。数秒の会話の後、玄関が開いた。

「よぉ、こうすけ。ん?その車は…。」

「ああ、ハコスカだ。」

富嶋はハコスカの前まで駆け寄った。

「す…すげぇ。何処で手にいれたんだよ?」

「いや、俺のじゃない。預かった車なんだよ。」

「なんだぁ。で、預かったからって、化石を自慢しに来たのかよ?」

幸助は首を横に振ると「頼みがあって来た。」と良い、交渉をした。

「1日預かればいいんだな。でも良いのかよ。俺んちで?」

「ああ、また明日取りに来る。勝手にカスタマイズするなよ?明日、ラリーカーになってたらお前のR35を貰うからな。」

「んなことしないよ。てかあれは親父の車だぞ。あれ、キーは?」

「キーまで渡す訳無いだろ。さてはハコスカで乗り逃げする気だろ?」

「かもな。でも心配するな。」

幸助は話を終えると詠助を連れて帰った。


「明日楽しみだね。」

「えいすけ。ハコスカには俺が乗っているようにするよ。心配だからな。」

「わかった。」



それから翌日。

兄弟はハコスカを引き取りに行くと、ガソリンスタンドへ向かった。

「もう半分も無いからな。」

流石、旧車だと幸助は思った。

「昨日あんなにあったのに?ハコスカって、大食いなんだね。」

「え?じゃあ、この時代の車はもっと燃費がいいのかい?」

「もちろん!何倍もね。」

詠助が答える。

「何倍も!?」

「だがな、この時代の車と比べれば、ハコスカの走る楽しさは負けてないよ。」

幸助は続ける。

「でも…、今の車は変わってきたんだ。昔とはね。」


安全が第一の時代。実用性が馬力を打ち負かし、燃費が物を言う時代へと変わってきた。

ツポーツカーよりもハイブリット車が人気を増し、速さや馬力はその二の次と言われている。


その証拠は何処にでも見られる程になっていった…。


「祭りまで、まだ時間があるな。」

「コウ、洗車してあげようよ?」

「洗車?それならスタンドで…。」

「スタンドじゃなくて、自分で洗ってあげたいんだよ。」

幸助は笑いながら不意に詠助の頭に手を乗せてぐいぐい動かした。

「お前ってヤツは。」

幸助は家の方向へとハコスカを走らせた。

「今なら親父が車を乗ってってるから、洗車ができるぞ。」


家のガレージにハコスカを入れ、洗車の準備に取り掛かった。

ハコスカ。トビシマと何か会話したのか?」

泡の付いたスポンジでハコスカを洗いながら幸助が聞いた。

「何も話さなかったよ。でもあの人、ずっと自を見つめる事が何回もあった。」

ハコスカはどんな車好きでも虜にできるんだろうな。」

「気になっていたんだけど、ハコスカの持ち主ってどんな人なの?」

反対側から詠助が口を開いた。

「自の…自の持ち主はレーサーなんだ。」

「レーサー?僕のお爺ちゃんと一緒だ。コウ、そうだよね!?」

「ああ、そうだったな。凄く強かったらしいぜ。」

「君達のお爺さんもレーサーだったんだね。凄いなぁ。」

詠助はスポンジを動かす手を止めた。

「けど…。お爺ちゃんは、どんな車でどんなレースをしていたのか教えてくれなかった。必ず教えられる時が来るって約束したのに。」

「えいすけ…。」

幸助はホースを詠助に渡した。

「俺らの爺ちゃんがレーサーだっただけでも誇らしい事だぜ。さあ、仕上げだ。」



夕方。兄弟を乗せたハコスカは神社近くの駐車場にいた。

「しかし、こんなに人が来るんだなぁ。」

「あったり前じゃん。コウも来たことあるでしょ?じゃあ行ってくるよ。」

詠助は祭で賑わっている神社へと向かって行った。石段の前に着いた時だ。

「おっ、えいすけじゃん。」

そこには高石がいた。

「ああ、高石。」

「なんだこの前約束してたのに。」

「あれ?そうだったっけ?ごめん、忘れてた。」

「まぁ、いいや。早く行こうぜ。」

詠助は高石と賑やかな祭り場へ入って行った。


駐車場では幸助とハコスカが雑談をしながら祭りを眺めていた。

「君達は、何で自なんかを助けてくれるの?」

ハコスカが言う。

「何でって、そりゃお前が困ってるからだろ。それに、俺らは車が好きでもあるしな。」

「でも…疑ってたりしてない?」

「しないしない。確かに非現実的だけど、俺とえいすけはハコスカに会えて良かったって思ってる。全て仕組まれた嘘だったとしても、俺にとっては真実だからな。」

ハコスカは言葉に詰まった。しばらくして、また別の話題を切り出した。

「この時代のお祭りも、自が住んでいた時代の雰囲気と似ているね。」

「そうか。まぁ、夏の楽しみだからな。今でも浴衣を着ている人はいるし、花火だって凄い数打ち上げられる。昔かしも今もきっと繋がって、受け継がれているんだよ。」

そう言って幸助はシートを軽く倒した。

「昔から変わる物もあれば、変わらない物もあるな。ハコスカの時代はどんなんだろ…。」


f:id:dorifuto-naoki:20140429184323j:plain


詠助達は屋台の並ぶ境内をあちこち見てまわったりしていた。そんな時だ。

「ん?」

詠助は気付いた。誰かの視線を感じると。

後ろを振り向くと、見覚えのある人がそこにはいた。そう、黒い帽子を被った男だ。その男は目が合うと詠助の方へと近づいてきた。

「ねぇ、君。最近、この神社の前に車が停まっていたのを見たかい?」

「えっ、ハコスカ…。」

とっさに詠助はしまったと思った。

「えいすけ。知っている人?」

高石が横から言う。男はにやにやと微笑を浮かべた。

「ちょっと来てくれるかな?」

男は詠助に手を伸ばした。

「高石…またな…。」

詠助は駐車場に向かって全力で走り出した。

「え?ちょ、えいすけ!」

高石がそう言っているうちに男は詠助を追いかけ始めた。

「おい!待て!」

石段を転びそうになりながらも駆け降りて駐車場に行き、幸助が乗っているハコスカへと急いだ。

「どうしたえいすけ。」

「早く!コウ!あいつがっ!」

もう男は駐車場の手前まで来ていた。

「待てぇ!」

幸助は急いでキーを回すと、タイヤの擦れる音が出るほどアクセルを力一杯踏み込んだ。反対側の出口から脱出して、間一髪逃げ切る事ができた。

駐車場にはタイヤが発したゴムの焦げた匂いだけが残っていた。

「何だったんだよ今のオッサン。」

「はぁ…、はぁ…。知らないよ…。」

詠助は息切れをしていた。

「もしかして、ハコスカの持ち主じゃあ?」

「絶対違うよ!あんな帽子を昔の人はしてない。」

詠助は即答した。

「とにかく、あの辺りには戻れないな。どうしようか…。」

ようやく息を調えた詠助が言った。

「じいちゃん家に泊めてもらおうよ。」

「そうだ、そうしよう。」

幸助は昨日通った店へと急いだ。


店に着くと、兄弟の叔父と叔母が出迎えてくれた。

「あら?幸助と詠助じゃあない。どうしたの?」

叔母が尋ねた。

「いやぁ、ちょっと家が改装工事をしていてね…。今夜停めてもらえないかなぁ…と?」

「あら、そうなの。お父さんとお母さんは一緒じゃないの?」

「あー、親父は会社の旅行で、母も付いて行きました。」

こんな理由でいいのかな…と幸助は自分で思う。

「大変ねー。いくらでも泊まって行きなさい。あら、えいすけも大きくなったねぇ。」

そんなこんなでこの家に停めて貰える事になった。


「えいすけ。」

寝る間際に幸助が小声でささやいた。

「さっき電話で母さんには適当な理由で話しておいた。明日になったら神社に行こう。」

「え?なんで?あいつが来たら…。」

「いいか、ハコスカを帰さないと僕らも危険な目に会うし、何とかしてみないと。」

「…。」

詠助はハコスカと別れるのは嫌だった。しかし、帰さないとこの先どうなるか分からない…。心の中は複雑になっていた。




朝方になり、幸助は詠助を起こした。

「起きろ。早く行くぞ。」

「…んぇ。まだ暗いよ。」

「この時間ならあいつも寝てるかも知れないからな。さあ、行くぞ。」

支度を簡単に済まして二人はハコスカに乗り込んだ。

薄暗い道路をヘッドライトを点けて運転しながら幸助は訳をハコスカに一通り話しておいた。

「わかった。でも、誰が運転して過去に行くの?一度行ったら自に乗らないと帰れないかも知れないよ。」

ハコスカが言う。

「分かってる。」

「自のせいで二人をこんな事に巻き込んでしまったのに…。」

ハコスカは悪くないよ。何とかしてやるから心配するな。」

そうこうしているうちに神社の前へと着いた。まだ辺りは薄暗く青がかっていた。

「えいすけ、降りろ。」

「え?」

「俺が乗っていく。」

「そんな…ちょっと待ってよ。」

「えいすけ。心配するな、必ず帰ってくるから。なっ。」

急な話だった。幸助はたった今、思い付いたかのようだった。

「そんな…コウ…。」

「もう…こうするしか無いんだ。」

幸助は一度ハコスカを降りて、詠助の方へと車をまわった。

「降りてくれ…。えいすけ。」

この時、ハコスカに誰かが近づいてくる足音が聞こえた。とっさに会話を止め、二人は背筋を凍らせた。

「戻ってきたのか。また会ったな。」

それは、昨日詠助を捕まえようとしたあの男だった。近くにいる為、幸助が車に戻ったとしても捕まってしまう。

「そのハコスカは俺の車なんだ。さあ、返してくれ。」

男の言葉に詠助が言う。

「違う。やっぱりハコスカの持ち主は別の人だ。」

「なに?…ああ、そうか。まだお礼をあげてなかったね。何か欲しいものはあるかな?」

「無い。ハコスカはあんたの車じゃないだろ?」

幸助が出る。

「おお。なぜ、言い切れる?」

ハコスカは以前、この時代だと自の事をハコスカと呼ぶと言っていた。あんたはこの車をハコスカと呼んだよな。過去の時代にいる持ち主なら、ハコスカとは呼ばないだろ。」

「なんだ、バレてやがったか。」

幸助は声を大きくした。

「なぜハコスカを狙ってるんだ!」

「いいだろう。お前らも知っている通り、ここの神社の鳥居は時間を移動出来る何かがある。それに気付いた俺は偶然作れた機械を使って過去に行った。それでどうだ。ハコスカがいたんだよ。」

男はある小型の機械を手に持っている。

「こいつがないと人は時代を越えることは出来ないが、ハコスカは車だから持ち主は取り残され、ここには来れない。全て計算通りさ。」

「だましたな!」

ハコスカが言った。

「そうだ。機械のお前に何ができる?」

「最初からハコスカを目的に?」

幸助が続ける。

「いや、ハコスカに出会ったのは紛れもなく偶然だ。俺は持ち主に作った機械を渡しただけだ。ハコスカに付けるだろうと予測してな。この機械の事だけは言わなかった。そして、ハコスカでこの時代にやって来るとな。」

「じゃあ何でハコスカを…。」

「まだ分からないのか!今じゃあハコスカは長く使われたのしか無い。だがそのハコスカは新車同様、さらに走行距離が短いから価値もある。そう、俺はエンスーなんだよ。」

男はハコスカから幸助へと視点を変えた。

「機械を外せば俺の物になる。まさかこんなに上手く行くとは思ってなかったが、お前らがその邪魔をしたんだぁ!」

すると男は後ろから小型のナイフを取り出した。

「大人しく渡せば逃がしてやろう。どうせ誰も信じない話だからな。」

「やめろ!お前なんかエンスーじゃ無い!」

「なに?易々とハコスカのメーター回して走らせたお前に何が分かる?」

「違う!車は走るからこそ意味を成すんだ!」

「黙れっ!」

男が幸助へと近づこうとした時だ。

突然ハコスカが走り出したのだ。

「コウ!逃げて!」

幸助がハコスカの中を見た時、詠助がステアリングを握っていた。

「えいすけ!やめろっ!」

詠助を乗せたハコスカは入り口から鳥居の方向へ走った。すると突然鳥居の中が光だし、辺りが青白の世界に変わったかと思えば、パッと消えてしまった。

「そんな…えいすけー!」

幸助は鳥居に向かって叫んだ。

「ちくしょう、よくも!」

男は幸助にナイフを向けた途端。

「動くな!」

声の方を見ると、そこには警察官が拳銃を構えていた。

「不味い。」

男はとっさに逃げようとしたが、もう一人いた警察官が行く手をふさぎ、取り抑えた。

その瞬間、男が持っていた機械が地面に落ちた。

「八渡 有造!現行犯逮捕!」

警察官は男の腕に手錠を掛けた。

「なぜだっ!何で!」

「お前に気づかれないようにサイレンを鳴らさないで来たんだ。長い逃亡だったな、観念しろ!」

男はパトカーへと乗せられた。



光に包まれた後、詠助は閉じていた目を開いた。そこは空が青い以外は全て白の世界だった。

振り返えると二つの影が詠助に向かって延びていた。その影の片方は車で、もう片方はやはり人影だったのだ。

詠助はこの前見た夢と同じ光景を見ていたのだ。

「待ってよハコスカ!待って!」

詠助はその影に向かって走った。今度は夢とは違って、ハコスカの前まで来れた。

ハコスカ…。」

詠助はハコスカのボンネットに軽く手を乗せた。

「もう…会えないのか…?」

詠助の目には涙が浮かんでる。

「また会えるよ。」

「いつ?」

「それはその時次第。でも、何処かで会えそうな気がするんだ。」

「絶対だよ?ハコスカに乗って…また…ドライブしたいな…。」

「そうだね…。えいすけに会えて良かったよ。」

ハコスカ。ありがとう…。」

詠助の目から涙がこぼれ落ち、ハコスカに当たった。

「運命だよ。えいすけに会えた事は。」

そう、この不思議な縁は運命なんだと詠助は思う。その運命を詠助は大きく動かした瞬間だったのかも知れない。

そして詠助はハコスカの隣にいる黒い人影の方へと目を移し、はっと気付いた。その人物が誰かわかった時には、さっとその人物に抱き付いていた。

「会いたかった…。もう会えないはずなのに。」

涙が溢れ、強くその人を抱き締めた。

「ごめんな。でも、約束は本当だっただろ?」

詠助は何も言わずに頷いた。

その人はすっと詠助を離れ、わずかだけ詠助の手を握った。

「どんな時も見守ってるからな。えいすけ、こいつをありがとう。」

そう聞こえたかと思うと、それと共にハコスカが遠ざかっていく感じがした。いや、詠助の手を離れ、ゆっくりと加速しながら遠ざかっていく。

「えいすけ。ありがとう。」

それがこの時、ハコスカから聞こえた最後の言葉となった。

詠助はまたハコスカの方へと走った。走って、走って…もう目からは涙が溢れるように出てきてハコスカの姿が歪んでいる。出せる力を全力で、走れるだけ走った。

それでも追い付くことは無かった。詠助は徐々に速度を落とし、やがて足を止める。

詠助は腕で涙を拭うと、絞り出す様に声を張った。

「走れぇー!!」

その瞬間また目の前が光だし、詠助は目を閉じた。

気が付くと詠助は神社の入り口に立っていた。

目の前に幸助がいる。

「コウ!」

下を向いていた幸助が頭を上げた。

「えいすけか?えいすけー!」

幸助は詠助に駆け寄った。

「えいすけ!何であんな事をするんだ!心配しただろ!」

「だって、あいつが持っていた機械無しならハコスカだけが過去に戻れるって分かったから…。」

「お前は免許を持てる歳じゃないだろ!」

「え…そこ?」と詠助は苦笑をした。

「とにかく、戻ってきてくれて良かった…。ん?えいすけ、泣いてるのか?」

詠助は慌てて目をこすった。

「いや…別に。あっ、あの男捕まったんだね。僕が通報したんだよ。」

「そうか…そうだったか。ありがとな。車内に携帯を置いておいてよかった。」

だが詠助は下を向いた。少し寂しい思いだったのだろう。ハコスカともう少しいたかったと。

「寂しいんだろ?でもそれぐらい楽しかった時間を過ごした証拠になるんだ。」

幸助は詠助の肩を優しく叩いた。

「えいすけ。今悲しかった分、これから笑えばいいさ。ハコスカにはもう会えない訳じゃない。過去に行っただけだよ。」

詠助は顔を上げ、石段の上に建つ鳥居を見上げた。

「あっという間だった。時間が過ぎるのは速いね…。」

「俺らの前に道は無いけど、後ろにはある。それをハコスカは走っているんだ。あの格好いい音を鳴らしながらな。また何処かで会えるさ。」

「不思議な事だった。ほんとに…。」

詠助が独り言の様にポツリと言った。

「確かに不思議だった。だが、車が好きな人がいる限り、車に限界は無いんだよ。」

幸助の言葉に詠助は軽く頷いた。

「そうだね。」

その頃、辺りは段々と明るくなっていった。

「あっ、日の出だ。」

詠助が言い、幸助も朝日の方を見た。

「さぁ、帰ろうか。」

幸助は家の方へと歩いた。

帰ろうとした詠助は地面に何かが落ちているのを見つけ、拾い上げると幸助に気付かれる前にポケットへと入れた。

「えいすけ。いくぞ。」

詠助も家の方へと向かった。

二人は同じ事を思っている。あの旧車は現代に向かって、時を走っていると。

「コウ、あの光の中で凄い人と会ったんだ。僕らが誇る、あの人に。」

f:id:dorifuto-naoki:20140427220505j:plain


- end -

あとがき

こんな小説を読んでいただきありがとうございました。いかがだったでしょーか?

人は何かを失って成長するんだと思う。気付かないうちに失う物があっても、何かを得ているんじゃないかな。

車が好きな人がいる限り、車に限界は無いんだと思ってる。この小説はそんな風に作った。
見たいと言う人がいたら続きを投稿しようかな。

あなたは、車が好きですか?


2012 うごくメモ帳でコンセプト公開
2013 訂正版 公開
2014 ブログ版 最終訂正

201X 別の自作小説に詠助の叔父登場?