なおちとせ 1話
このブログについての注意事項。
1.食べられません。
2.違う意味で目に入れないでください。
3.高温多湿を避け、なるべく涼しい所で読んでも変わりません。
一話 春の燈
それは、ちょうど桜が咲き始めた頃だった。
直人(なおと)はその日の夕方、妻の燈(あかり)が入院している病院から連絡を受け、仕事場からその病院へと向かっていた。
直人が燈の入院している病室に入ると、燈と娘の千歳(ちとせ)が笑いながら会話をしていた。
「あっ、なお」
「なお遅い!」
「ごめんあかり。大丈夫なのか?」
「うん。さっき息苦しくなって…。今は大丈夫」
「そうか」
「仕事中だったのにごめんね…」
「いや、もう終わる時間だったから大丈夫だよ」
そこまで走って来た直人は呼吸を整えながら燈の寝ているベッドの隣にある椅子に座った。
燈は以前から病にかかり、医師から余命を宣告されたほど深刻な状況だった。直人は覚悟していたが、そのいつ消えるかわからない命の灯火を絶やさないでほしいと、ただ願う事しか出来なかった。
「なおが治してあげることはできないの?」
千歳が聞いてきた。
「俺は別の病院で働いているし、病院の先生って訳じゃないからな。治してあげたいけど」
「ほらまた。ちとせ、なおって呼ぶの変よ」
「えー、お母さんだってそう呼んでるじゃん」
「ちとせは来月から小学生でしょ?みんなお父さんを名前でなんて呼ばないわよ」
「まぁ、そんなすぐ変わんないよ。今までずっとそう呼んでたんだから」
それからいつもの様に三人の会話は長い時間続き、外が暗くなった頃にようやく時計を見ると、遅い時間になっていた。
「もうこんな時間か。とりあえず、また明日来るよ」
「えー、もう帰るの?」
「ちとせは晩飯食わないのか?」
「たべるけど…」
「ねぇ、ちとせ」
燈が両手を広げて呼ぶと、千歳はベッドに上がり燈を抱きしめて「早く元気になってね」と言った。
直人と千歳が病室を後にしようとすると燈が声をかけた。
「なお…」
「ん?」
「笑って」
直人は「心配するな」と言って燈に変顔を見せると病室を後にした。その顔を見て、燈は笑いながら軽く手を振って2人を見送った。
それが今日までの間に、燈が見せた二人への最後の笑顔だった。
二人は病室を後にし、自販機やベンチの並ぶフロアに立ち寄った。
「ちとせ。何か飲むか?」
「うん」
直人は自販機で千歳に飲み物を買ってあげ、テレビモニターが近くにあるベンチに腰をかけた。
隣で缶ジュースを飲んでいる千歳を見つめている直人には、ある悩みが浮かんでいた。
燈にもう二度と会うことができないと理解した時、千歳は耐えられるんだろうか?人生の中で最も身近であるはずの存在がいなくなるって事は、幼いこの子にどれだけの圧をかけるんだろうか?
同時に、今すぐに悲しませないように成長するまで完全に理解をさせないで誤魔化すかという考えもあった。
しかし上手く誤魔化せても悲しむ時を伸ばすだけの事にすぎない。
直人はベンチに座ったまま項垂れた。すると突然、辺りが真っ暗になった。
「あれ?」
直人は顔を上げるとそこは病院ではなく、全く別の場所にいた。
立ち上がり、辺りを見渡すと、暗いその場所には道だけが見えて目の前で分かれ道になっていた。その分かれ道の真ん中には直人以外にもう一人いる。
直人は突如出現したその空間に混乱気味になりながらも、目の前に立っているその人物に声を掛けようと近づいた。
「あの…」
声をかけた瞬間、直人は言葉を失った。
そこに立っている人物はどう見ても幼い頃の自分だったからだ。
「驚いた?」
「オレ…か?」
直人はなんとか落ち着こうと、自分はただ疲れているだけだと思い込んだ。すると少年時代の直人が話しかけてきた。
「なぁ。今、ちとせに本当の事を教えるか誤魔化すかで迷いがあるんでしょう?」
正に今考えていた事を言ってきた。
「ああ。けど、ちとせも死って何なのかを、薄々気づいていると思うんだ。ここで変に誤魔化して、もっと悪い思いなんかして欲しく無いからな」
幻覚なのに何をまともに答えてんだと思いながらも、正直な気持ちを発した。
「本当にそれで良いの?それでちとせは、かなりのショックを受けるはずだよ」
「かもな…」
「完全に事実を隠し切る事なんて出来ない。でもせめて成長するまで傷付かないように助けてあげるのが大人じゃないかな?」
「助ける?教えないことが?」
「誰にだって今は知らない方が良かったと思うことがある。あの年の子供なら尚更のことだと思うよ」
この時、直人は少年時代の直人に少し腹を立てながらも、はっきりと自分の考えを通すことに決意を固めていた。
「子供に本当の事を知る権利が無いなんて、誰が決めたんだよ。どれだけ傷付くかなんてちとせ以外が決められるわけねぇだろ」
少年時代の直人は真顔からにやけ面になると右の道を誘導するように片腕を軽く広げた。
「んー…。お好きにどーぞ。後悔するのは自分だけどね」
直人は何も返さず、その道を進んだ。
「なおー」
千歳の声を聞いた瞬間、すっと周りの景色が元に戻った。
「ん?どうした」
千歳は項垂れていた直人に心配しているような眼差しを見せた。
「はんぶん飲む?」
直人は千歳が半分ほど飲んだ缶ジュースを受け取ると、残りを一気に飲み干した。
「よっしゃ!眠くなくなったぞ。ちとせはお母さんに似て優しいな」
「ご飯前にジュースはダメだって思い出したから」
「…。ああ、やっぱり燈そっくりだ。さっさと帰って夕飯食おうぜ」
翌朝、病院から直人に連絡が行き、病院へ駆けつけた。覚悟はしていたが、直人が病室に着いてから、そのわずかな時間を最後に燈は幸せそうな顔を見せながら次の世界へと先立って行った。
その後は直人が予想していた様に、千歳は一日中泣き続けていた。それから何日も表情は暗いまま、なんとか辛い気持ちを押し殺している千歳が少し落ち着きを見せ始めた時に、直人は切り出した。
「ちとせ…。お母さんとの約束、覚えているか?」
「…」
「どんなに辛いことがあっても、それに負けないように笑ってくれって言ってたよな」
「うん…」
「ずっと泣いてると、お母さんも悲しむぞ」
「うん…」
「ちとせー」
直人は千歳の顔を覗き込むと、燈に見せたように必死に変顔をした。
「涙止まんなくて、めちゃくちゃ辛い時はこの顔を思い出して笑ってくれ」
「…」
「ずっと前、お母さんが泣いてた時に同じことをしたんだよ」
「…うん」
「会えなくたって、お母さんはずっと見守ってるから…。ほらっ、笑ってみ」
千歳は直人をぎゅっと抱きしめ、少しつづ笑顔を取り戻し始めた。
この数日間、直人も必死で気持ちの整理をしていた。この先、千歳と二人で生きて行く事に対して自分を変えていかないといけない意識を強く持っていたが、その"自分を変える"というのは直人にとって最も難しい事になる。
心に空いた穴なんて、そう簡単には塞げない。でもその心は少しづつでも治すことはできる。誰が千歳を守る?それに応えられるように、一人の人生を全力で守ってやるのが親じゃないのか。じゃないと燈に顔向けできないだろ?
直人にとって、その一歩の答えが"笑い"だった。
「なぁちとせ。これは前にお母さんと話し合ったんだけどな。お母さんのお墓はおじいちゃん達が暮らしている方じゃん。いつでもお母さんの近くに居れるように、向こうで暮らそうと思うんだけど。どう?」
「…ひっこすの?」
「まあな。そういや、ちとせはまだ行ったことがないけど、向こうには俺の方のおじいちゃんが建てた別荘があるんだよ。そこに住まわせてもらおうかなって」
「おじいちゃんの別荘に!?」
「そう。前に少しの間だけ親戚が住んでいたみたいだけど、今は使ってないみたいだし」
「そこいってみたい!」
「よし。決まりだな」
「大きい家?」
「うーん。まあまあかな。でも2人で暮らすには十分な大きさだよ」
「でも、そこってわたしと同じくらいの子はいるのかなぁ?」
「あぁ。たしかに田舎だけど、まだ小学校があるくらいだから、近くに同い年の子が何人もいるかもしれないな」
「へぇー」
「たしか…。その近くに住んでる俺の友達の娘が、ちとせと同い年だった気がするな」
「ほんとに?」
「向こうに行ったら挨拶に行こうな」
「うん!」
こうして二人は直人と燈が生まれ育った田舎町に引っ越す事になった。
今は千歳にとって、良い選択なのかはわからない。でも自分と燈が逆の状況だったとしたら、燈も同じ提案をしてきたかもしれない。そう思った上での決断だった。
「一度、三人で行きたかったなぁ…」
夫婦で話し合った時、燈がそう言っていたのを直人は思い出し、自然と涙がこみ上げてきた。
「なお、泣いてるの?」
「ん?汗だよ汗」
「ウソばっかー」
それから一週間を過ぎた引っ越し当日。車に積む荷物以外、家具などを全て引っ越し屋のトラックに積み込むと直人と千歳は部屋の隅々まで掃除をした。
家具を配置されていない、がらんとした部屋を見つめながら二人はその部屋とのお別れをした。
「さて、この部屋ともお別れだな…」
「もうここには帰ってこないの?」
「ああ。こっちに帰って来るのは難しくなるな」
「こっちで思い出たくさんできたよね…」
「そうだな…。でも向こうでは、もっと何倍も思い出を作って…それでお母さんをびっくりさせてやろうな」
「うん!」
「よし。じゃあ、とりあえずの荷物だけ車に積むか」
部屋を後にした二人は、車で引っ越し先へと出発した。
「何時につくかなぁー?」
直人は車のナビを操作しながら「おじいちゃん家へ行くのと同じくらい」と返した。
長い道のりになると知った千歳は、この間燈に買ってもらった携帯ゲームの電源を入れた。
高速道路をしばらく走った頃。いつの間にか千歳は手に持っていた携帯ゲームをやめると、移り変わる景色を眺めたり、隣を走る車の人に手を振ったりしていた。
長時間、車を走らせた直人はサービスエリアへと車を停めた。
「あれ?ついたの?」
「いや、ここは休憩する所だ。って事できゅーけーい」
「ごはんたべるの?」
「そうだな。ここで食うか」
二人は車を降りてフードコートへ向かったが。
「うわっ、混んでるな」
フードコートは満席で、席を待っている人さえいた。
「どうするか。もう少しだし、高速降りてから何か食べるか?」
「そーする」
再び車を走らせ、次第に景色はトンネルの続く山々に囲まれた所へとやってきた。
「ちとせー、見てみろー」
「おぉー!」
そこで二人が見たのは、山頂にまだ雪が残っている巨大な山だった。
「今日は綺麗に見えるなぁ」
「ふじさん!ふじさん?」
「…。富士山は逆方向だ。これは磐梯山だ」
「へぇー。しらなー」
「来年の冬にでも一緒にスキーに行くか」
「えぇ…」
「なんだ、嫌なのか?」
「だって、スキーってむずかしそうじゃん」
「俺がいくらでも教えてやるよ」
「なおってすべれるのー?」
「まあまあ」
それから高速道路を降りた頃には日がほとんど沈んでいた。一般道に入るとすぐに踏切で停止した。
「なおー!でんしゃが2台で走ってるよ!混まないかなぁ?」
「こっちは電車を使う人があんまりいないからな。2両で十分なんだろう」
「わたしが行く学校もあの電車で行くの?」
「あー、どうだろ。中学とかは乗るかもしれないけど、小学校は歩いて行くはずだよ」
踏切を通過し、周りの景色が田畑から古民家が立ち並ぶ町に差し掛かった。
「なあ、ちとせ。俺はもう腹がスーパーヘリタシスだから運転できん!」
「ハンバーグがたべたい!あとシャケ!」
「おし、じゃあハンバーグの美味しいところに直行!シャケはないけど」
直人が車を停めたそのレストランは、外に大きな赤い牛のオブジェがあった。
「なんだこれ?」
「ああ、ちとせは見るの初めてか。これは赤ベコっていう牛なんだよ」
「なにハンバーグがあるかな〜」
「人の話聞いてるか?」
二人は店に入りメニューを開いた。千歳は見てるのか見てないのかページを適当にめくっていた。
「決めたか?」
「んー、オススメは?」
「一番最初のページにでっかく載ってる…これはどう?」
「これにする」
オーダーをしてから、千歳はしばらく店内をキョロキョロ見渡していた。
「なおー。さっきいた赤いのがあそこにもいるし、絵もあるよ」
確かに店内のあちこちに赤ベコの絵があったり、小さな置物もあった。
「懐かしいなぁ。俺がちとせぐらいの頃に赤ベコを作ったことがあるんだよ」
「あんなでっかいの?」
「いや、手に乗るくらいの大きさなんだけど。こう、筆で周りに模様を描いたりして、わざとしっぽをくるくるに描いてみたり」
「わたしもほしい」
「近くのお土産屋なら、いくらでも売ってるよ。でっかいのがいいか?」
千歳は首を横に振った。
「自分で作りたい」
「そっかぁ。俺が赤ベコを作ったのは、夏にあったイベントに行って作ったんだよ。今もやってるのかなぁ」
そんな話をしている内に二人の料理が運ばれて来た。
「いただきまーす!」
千歳はハンバーグのソースを口に付けながら、この日一番の笑顔を見せた。
それを見た直人は急に手を止めて「なぁ、ちとせ…」
千歳は手を休めることもなく「ん?」と反応した。
「…。いや…ハンバーグ美味いか?」
千歳は食べる手を止めずにコクっと頷いた。
夕飯を食べ終わり、店を出ると辺りは真っ暗だった。
「くらっ!」
「田舎だからなぁ。あんまり建物も無いし、車もそれほど走ってないし」
そう話しながら二人は車に乗った。
「あっ、そうだ。明日の朝ごはん買ってなかったな」
「いつものシャケとみそスープ!」
「あっ、わりぃ。向こうの冷蔵庫とか調理器具とかは引き取ってもらってんだった。明日、引っ越しのトラックが来るまではパンとかで我慢してくれ」
「えー。わかった」
「とりあえず、そこのコンビニで買おう」
「コンビニあるんだ」
「今ってどこにでもあるよな。もう少し行けばスーパーもあるし」
「ハイパーは?」
「ハイパーもウルトラも無いよ。多分」
朝食用のパンを買ってからは真っ直ぐと新居へ向かった。その数分の間に千歳はコンビニの袋を抱えたまま眠気と格闘を始め、着いたのは8時半を回った頃だった。
「ちとせ。着いたぞ」
千歳は閉じていた目をゆっくりと開いた。
「ここが今日からオレらの家だぞ」
「まえの家はどうなったの?」
「売った」
「もっったえな!」
もともとスペアキーとして渡されていた鍵で玄関を開け、ストッパーで開いたまま固定した。
「ちとせー。荷物降ろすぞー」
2、3日分の着替えや洗面道具などを二人で手分けして玄関へと運んだ。
「ちとせ。見てろよ」
「ん?」
直人は先にブレーカーのスイッチを入れて来ると、玄関から直ぐのリビングのスイッチを押し、真っ暗だった部屋に明かりを灯した。
「わぁー!」
そのリビングは千歳が想像していたよりも洒落ていて、カウンターキッチンも有れば、外のウッドデッキに繋がる大きな出窓もある。そして奥の横開きの扉の向こうには和室があった。
「あと一階にはトイレと洗面所と風呂場だ。二階もあるぞ」
「二階も!」
直人は頷くと、指を上に指した。
「見てごらん」
それは千歳の眠気をも吹っ飛ばす光景だった。
今二人が立っているリビングと二階の廊下が吹き抜けになっていたのだ。
「すっっげえ!」
「だろ?」
更に天井にはライト付きのシーリングファンが設置されていた。
千歳はそのシーリングファンを指差すと「でっかいせんぷうき!」と言った。
「ほら、スイッチを入れると。速く回ったり、ゆっくり回したりもできる」
「おー!…でもかぜが来ないよ?」
「扇風機じゃないからな」
「かざりのせんぷうき?」
「んー…。知らん!」
「おとななのにしらないの〜?」
「大人だからこそ、なぁ、知らない事だってあるんだよ」
「なにそれ」
「わかった、わぁーた。ほれほれ、和室に来てごらん」
「これって」
「畳だ。出窓の内側も障子戸だぞ。」
「まえの家にはなかったよね。」
「そうだな。これでおじいちゃんちと同じだな」
そう言うと、直人は押入れの襖を開けて二人分の布団を出した。
「どうだ?俺らがここに住むって聞いて、おばあちゃんが新しく買ってくれたんだぞ」
「わたしのふとんかわいい!」
「おばあちゃんはホントちとせの好みわかってるよな」
あらかじめ用意されていた枕にカバーをつけたりして、二人は布団を敷き終えた。
「よっしゃ。明日は大掃除だな。荷物が届く前に早起きして掃除すんぞ」
「またそうじー!?」
「だって荷物届いてからだと掃除しにくいだろ?」
「そっかぁ。あたまいいね!」
「…。ありがとうございます」
直人は風呂場の方に向かった。
「寝る前に風呂だけでも入ろうぜ」
「はいろーぜ」
「ちゃちゃっと風呂掃除するから、その間にシャンプーとか降ろした荷物から取ってきて」
「イエッ、サー」
二人は風呂に入ると持って来たドライヤーで髪を乾かした。
「ねぇ、二階に行っていい?」
「二階は明日のお楽しみだ」
「えー」
「ほらっ、良い子は歯磨きして早く寝ないと怖いの来んぞ。悪い子はいいけど」
「はーい」
直人は千歳の歯を磨いてあげると、二人は敷いた布団に横になって、明かりを消した。
「明日は色々買いに行くから…。ちとせ、荷物持ってくれよな」
「…なおー」
「ん?」
「わたしね、もうすぐ小学生でしょ。」
「おん」
「あのね、だからランドセル買うって言ってたでしょ?」
「ああ、そうだったな…。考えとくよ。おやすみんみんぜみー」
「…おやすみなさーい。」
それから2時間ほど経過した頃だろうか。それまで眠りについていた直人がゆっくりと目を開けた。
窓と障子戸に当たった月明かりがわずかに部屋を照らしていた。
直人はもう一度寝ようと目を閉じ始めたが、ある違和感を感じ、その違和感の正体は直ぐにわかった。部屋の一部だけ月明かりがよく当たっていたのだ。それもちょうど直人の顔が当たる部分。
障子戸が少し開いているのだと気づくと、直人は軽く布団から体を出し、自分の頭側にある障子戸を閉めた。
そのままチラッと千歳の寝顔を見ると、また眠りにつこうと目を閉じた。が、また何やら違和感を覚え、直人はゆっくりと目を開けた。
目を開けた直人の瞳に映っていたのは、頭側から反対向きにじっと直人を覗き込むように見ている人の影があった。
—Thank you for reading.